お久しぶりです。さくら朔々です。

年が明けてから初めての更新です。(というか、だいぶ長いこと放置していましたが…)
本年も宜しくお願い致します。


山本文緒さんの「自転しながら公転する」を読みました。
久しぶりに物語の中にどっぷり浸かり、やっぱり小説って面白いなあと堪能しました。


以前から山本さんのファンで、7年ぶりの長編小説ということで楽しみにしていたのですが、私はこの頃、あまり小説を読まなくなっていたので「長めの小説だけど読めるかなあ。しかも主人公が32歳というのは共感しにくいかも…」と、手に取るのを少々躊躇っていたのですが、杞憂でした!
面白くて、久々に寝るのも忘れて一気に読みました。


本の帯に「結婚、仕事、親の介護 全部やらなきゃダメですか?」とあるのですが、
主人公は、東京のアパレルメーカーで10年ほど仕事をした後、母親が体調を崩したのをきっかけに、地方都市の実家に戻り、今は契約社員として、ショッピングモールで洋服販売の仕事をしている女性。
日々、様々な役割をこなしながらも、どこか中途半端な想いを抱えています。
そんな中で、ふとしたきっかけで出会った男性と付き合い始めたものの、自分はこの人と結婚したいのか?と考えると、そこまでの確信や決意はなく、ぐるぐると同じことを迷い続ける自分は、これからどう生きていったらいいのだろう…という物語です。


山本さんの小説は心理描写が見事で、主人公の気持ちに引き込まれながらも(というより、身につまされながらも、と言った方が近いかも)時折、主人公の母親に視点が変わると、人物や出来事の別の側面が見えてきて、「自転」と「公転」では、見える景色や意味に違いがあることにも気づかされます。

これからどう生きていったらいいのだろう?という問いは、けして主人公だけのものではなく、世代や立場が違っても、それぞれの形でみんな考え続けているのだな、と。

ある場面で、主人公の隣に居合わせた客が言う「明日死んでも悔いがないように、百歳まで生きても大丈夫なように、どっちも頑張らないといけないんだよ!」という、どう考えてもすっきりとした正解がない難問を、その時々に考えながら、状況によって答えを変化させていくのだなと思いました。


こう書くと、ひたすら現実的でヘビーな話のようですが、そういった面がありつつ、しっかり魅力的なラブストーリーでもあって、面白かったです。

主人公の付き合っている人が「私を幸せにしてくれる白馬の王子様」とは程遠いながらも魅力ある人で、しかし、この人と付き合っていたらなにかと不安だろう…と、主人公の気持ちに共感もできて、この二人はいったいどうなるの?とハラハラしつつ読みました。


複雑で奥深い味わい。そしてやはり、タイトルが秀逸。

久しぶりに、物語の世界に浸る楽しさを思い出させてくれた一冊でした。